文:ラリーズ編集部 写真(トップ):getty images
要するに
・1:日本のエース水谷隼は「最強のオールラウンダー」選手
・2:中国と真っ向から打ち合える数少ない選手
・3:スランプに陥ったこともあるが、妻の一声で復活
このページの目次
リオ五輪でメダルを獲得し、一躍時の人になった水谷隼。世界ランキング8位(2017年9月現在)の実力とは
水谷隼は「オールラウンダー」な選手だ。幼いころから天性の卓球センスを持ち、柔らかいボールタッチと高い身体能力を活かした万能型のプレースタイルを取る。例えばラリーでは、ボールのコースの読みに優れている。他にもブロックも堅く、相手の動きを読んだブロックで得点を重ねることもしばしば。さらに、後陣からのロビングも得意としており、守備を主体に戦える力を持っている。ラリーから点をとるヨーロッパスタイルを主軸にしつつ、多様多彩なサーブからの三球目も強烈。まさに「全方位型」の選手と言える。
そんな日本のエース・水谷は1989年6月9日、静岡県磐田市に生まれた。小学校の卒業色紙に書いた抱負は「卓球一筋」。小さいころから卓球をしていて、中学校でも卓球をするのでこの抱負にしたそうだ。「なるべくいろいろな大会に出場したら全部優勝狙いたい」と願っていた。(写真はこちら)
プレースタイルは、左シェーク裏裏オールラウンド型。ラケットは水谷隼SUPER ZLC。五枚合板とスーパーZLカーボンが織り込まれ、非常に高い反発性能を持つ。ラバーはフォア・バックともにテナジー80。書籍には、「負ける人は無駄な練習をする」「水谷隼の勝利の法則」がある。現在の所属は木下グループ。2017年から欧州最強との呼び声高いオレンブルク(ロシア)でプレー。
最近は、中国に対抗するために、かなり前中陣で超攻撃的なプレーをとることが多い。
◆リオ五輪での活躍

出典:pixabey
水谷隼を世間に印象づけたのがリオデジャネイロ五輪だ。)卓球男子団体では、決勝で中国に1-3で敗れたものの、銀メダルを手にする。これは、過去最高だったロンドン五輪の日本女子と並ぶ成績である。決勝で、水谷隼は唯一中国選手に勝利し、勝ち点をもぎとった。
また、シングルス準決勝では、中国の馬龍に肉薄。セット0-3から2セットをとり返し、あわやというところまで追いつめた。銅メダル決定戦で、ウラジーミル・サムソノフ(ベラルーシ)を4―1で破り、銅メダルを獲得する。卓球シングルスでの銅メダルは日本勢で初めてである。
”世界最強”の中国軍団から真っ向から打ち合える数少ない選手として世界から注目される水谷。現在は、中国に対抗する為に前陣での超攻撃的なプレースタイルに変わった。中国選手は、サーブからの強烈な三球目攻撃が強く、ラリー力もある。その為、安定したラリーで点を稼ぐヨーロッパスタイルではなかなか対抗出来なかった。
これまでヨーロッパスタイルで中国選手から勝ち星を挙げてきたのは、ドイツのティモ・ボルである。ティモ・ボルは、独特なフォームからのYG(ヤングジェネレーション)サーブと回転量の豊富な両ハンドによる安定したラリーを武器に各国際大会で勝ち星を挙げてきた。

ドイツの英雄、ティモ・ボル(出典:flickr)水谷は、ティモ・ボルとともに中国の対抗馬になる選手となった。
◆張本智和に敗れ、心身ともに不調だった水谷隼
しかし、上位進出を見込まれた2017年5月の世界選手権(ドイツ)で、水谷隼は史上最年少で出場した張本智和に2回戦で1-4で敗れる。その後、心身ともに不調に陥ってしまう。
水谷隼は以前から「東京五輪で僕を越える才能が必要」と述べており、「その才能として思い当たるのは張本しかいません」と明言している。張本智和の才能を最も評価しており、恐れていた。
13歳・張本智和こそ、水谷隼が「中国を倒すには必要」と熱望した才能(Sportiva 2017/6/7)
試合前からTwitterで「今日もきっと緊張して寝れないんだろうな…だって明日は張本だ。」と不安な心境を吐露していた。
歴史的な敗北の後、水谷隼はTwitterでこう語る。
終始圧倒され特に良いとこなく敗戦?
みなさんの期待に応えられなくて申し訳ないです(>_彼のためにも自分がさらに強くならないとね?
また0から頑張ろうー??— 水谷隼 (@Mizutani__Jun) 2017年6月1日
この発言がもとになって(?)、Twitterアカウントに公式マークが付与されるという事件まで発生した。
【水谷隼】歴史に残る「水谷ツイッター事件」とは!?(Rallys 2017/7/26)
この敗戦は、それだけ本人にとっても、卓球界にとっても衝撃的な出来事であった。水谷がショックで立ち直るのに時間がかかってもおかしくはない。
◆不調を立て直したのは奥さんがきっかけだった

出典:いらすとや
水谷隼が復調したのは、家族の支えがきっかけだった。5月の世界選手権(ドイツ)に妻も応援に駆けつけたが、応援を始めるタイミングが遅かった為か、水谷隼は張本智和に敗れてしまう。
千駄ヶ谷の東京体育館で開催された6月のジャパンオープンでは、「初めから声を出して欲しい」という夫の願い通り、試合の開始から妻の応援の声が聞こえた。「隼、頑張れ」の声がはっきりと耳に入った。
水谷隼、甦った勝負強さの裏に妻の「隼、頑張れ」(日刊スポーツ 2017/6/18)
この日、水谷隼は世界選手権個人戦の銅メダリスト李尚洙(リサンス:韓国)をセットカウント4-3で破る。先に2セット先取するが、水谷のフォアハンドにミスが目立ち、李尚洙の両ハンドが止まらない。その後の3セット連取され、2−3と追い込まれる苦しい試合展開となった。
しかし、勝負強さがここで光った。6セット目を11-7でとると、勢いに乗り、7セット目を10-6でリードする。その後、4ポイント連取され追いつかれ、再び苦しい展開となるが、勝負どころで思い切ってサーブを変え、逃げ切った。
「不安で自信もなかったが、やっと自分らしいプレーができた」と本人がいうように、この試合で水谷隼は、思い切って攻めにいく攻撃スタイルが戻ってきた。
先程の、日刊スポーツの記事によれば、妻は高校時代に知り合った卓球選手であり、お互いの気持ちがより分かるのかもしれない。
まとめ
水谷隼は、小学校の色紙通り、「卓球一筋」の人生を歩んできた。
天性の卓球センスを持っており、幼少期から注目されていた。
元々守備が上手い選手だったが、リオ五輪では、超攻撃型卓球で中国選手とも互角に戦い、会場を湧かせた。
張本を始めとする若手の台頭に影響されここ最近は不調が続いているとの見方もあるが、家族の支えをバネにして、今後も大活躍することを期待したい。